(社)日本繊維機械協会では、平成15年度「繊維機械における技術革新と今後の方向性に関する調査研究」を (社)日本機械工業連合会の委託を受け実施致しました。
本ホームページでは、そのダイジェスト版を掲載しております。
書  名
平成15年度繊維機械における技術革新と今後の方向性に関する調査研究報告書
発行機関名 社団法人 日本機械工業連合会・社団法人 日本繊維機械協会
発行年月日 平成16年3月
頁 数 165頁
判 型 A4
【目次】
第I章 編機
はじめに 1.横編機
2.丸編機
3.経編機
編機の技術革新 1.横編機
2.丸編機
3.経編機
わが国編機メーカーの技術革新と今後の方向性 1.わが国編機メーカーの技術革新
2.今後の方向性
3.編機開発以外の今後の取り組み
第II章 染色仕上機
はじめに 0
染色仕上機械の技術革新 1.準備、精練、漂白用機械
2.染色機械
 (1)連続染色機
 (2)バッチ式染色機
3.捺染関連機械
4.仕上用主要機械
わが国染色機械メーカーの技術革新と今後の方向性 1.染色仕上加工機械に求められる要件
2.今後の染色機械産業に求められるもの
第III章 繊維機械における技術革新と今後の方向性について
機種別 1.化学繊維機械
2.紡績機械
3.準備機械
4.織機
まとめ
【要約】
第I章 編機
はじめに
布には織物、ニット(編物)、不織布、レース、組物などがあり、ニットは織物とともに衣料品に多く用いられている。
ひと口にニットといっても各種の編地があり、編組織で分類すると、よこ編、たて編に大別される。よこ編はそれぞれの糸がよこ方向に走っていることからよこ編と呼ばれ、横編機により編成される横編地と丸編機により編成される丸編地がある。たて編はそれぞれの糸がたて方向に走っていることからたて編と呼ばれる。
セーター、カーディガン、ニット婦人服、マフラー、帽子、手袋、指付きの靴下などは横編地が多く、肌着、Tシャツ、ニットシャツ、運動着などは丸編地が多く、女性下着類、ネット、カーテン、内装材などは経編地が多い。
近年、ニットの生産地が中国を初めとした海外に移転し、大量のニット製品が輸入されるようになった結果、国内のニット製造業は減少した。
編機や編針の開発は欧米の先進国で始まり、これまで多くの編機メーカーが多様な編機を開発、製造してきた。近年は、開発技術の高度化に起因する編機開発コストの問題から撤退する先進国の編機メーカーが相次ぎ、メーカーの世界的な淘汰が起きた。
一方、台湾、韓国、中国などでは新たに編機メーカーが誕生しており、今後、先進国の編機メーカーはアジアのメーカーの追い上げを考慮に入れた取り組みが求められる。
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編機の技術革新
1.横編機
横編機の技術革新は、時代の背景や消費者ニーズに大きく係わって来た。 1955年以降世の中は、マスプロダクション時代に入り横編ニット業界では、手動機から自動機へと機械化が進みカット&ソーン商品の少品種・大ロットの時代に入った。
1960年代後半に入り編み込みジャカードや目移しジャカード柄が編める横編機が登場し、柄の多様化がはじまった。ITMA'75(ミラノ)にStoll社(ドイツ)が世界で初めてコンピューター制御片面ジャカード横編機を出品した。以後、本格的にコンピューター制御化が始まり、さらに柄の多様化が進み多品種・中ロット対応時代に入った。
また、柄の多様化に対応するためにステッチプレッサーやインターシャ装置なども開発された。1980年以降多品種、小ロット、短サイクル、成型・インテグラルニットの時代に入り、編出し装置、可動シンカー、デジタルステッチコントロールシステムなどが開発されていった。ITMA'95(ミラノ)に鞄精機製作所が世界で初めて無縫製型横編機を出品した。
2.丸編機
編機メーカーはニット業界のユーザーニーズなどから次なる開発目標を明確化する一方で、材料、機械加工、制御のハードウェアとソフトウェア、組み込み用ディバイスの拡充など幅広い分野の技術を応用することにより、編成アイディアを実現する各種機構を開発し、新製品開発や品質向上を図ってきた。以下に一般の丸編機と丸編靴下編機に分けて革新技術を紹介する。
わが国編機メーカーの技術革新と今後の方向性について
1.わが国編機メーカーの技術革新
ニットは編機の発展とともに進歩してきた歴史がある。90年代においては、電子技術とコンピューター技術が長足の進歩を遂げ、日欧の編機メーカーはそれらの成果を編機に応用することで、編機の自動化やコンピューター選針装置などの性能が目覚しく進展した。また、定番品のニット製品の生産が先進国から生産コストの低い国や地域へと急速にシフトが進んだため、先進国のニット産業向けに高付加価値ニット製品の生産が可能な無縫製型横編機、ガーメントレングス丸編機、ピエゾジャカードシステム付き経編機などが開発された。
2.今後の方向性
全地球規模で見ると、人口の増加や生活水準の向上に伴って、今後ともニット製品の生産は増加が予測され、編機の市場も成長が見込まれる。
今後の方向性としては、ニット製品の多品種、少量、高付加価値化やオンデマンド生産を実現化する先進国向けの編機と、定番品生産向けの高生産、低価格志向の編機の二つの方向が考えられる。
3.編機開発以外の今後の取り組み
ハードの開発だけではなく、システムの高度な利用技術や新しいニット製品の開発のためのノウハウなどのようなソフトを重視する方向への取り組みが、肝要となってくる。
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第II章 染色仕上機
はじめに
染色仕上機械は、工業分類の染色整理業に使用される多くの装置の総称である。
染色仕上工程は、繊維産業の中では原料の繊維製造から最終製品に至る分業体制の中で、中程に位置することから、繊維産業の川中と呼ばれている。
近年、染色整理業は、年々狭まる市場の中で少しでも優位性を勝ち取るべく努力を重ねており小さくなるパイの中での競争を強いられている。
そもそも染色整理業が繊維産業の中で優位さを保ち得たのは1960年代の輸出全盛時代であり、欧米から輸入された大量生産装置の普及に負うところが大きい。その後1970年代の韓国、台湾等NIESでの繊維の国産化の波は、高価な欧米機械でなく、安くて高性能な日本製装置の一大販路となった。その波は1980年代に東南アジアにも波及していった。欧米の染色加工装置が規格品販売に対して、日本製装置はオーダーメードで発注者の求める性能と据付場所への順応力により、国内のみならず海外にも多くの顧客を獲得していった。
しかし、日本製装置は一品生産のため、顧客のニーズに合致した装置の提供という長所と同時に、人件費が年々数十%も上昇する日本国内の情勢に加え、1985年のG7プラザ合意により、円が急沸し、多くの日本製造業の息を止めかねない状況に立ちいたった。
繊維加工関連機械・装置と緊密な関係にある国内の染色整理業も繊維加工品の輸出が大きな影響をうけ、開放経済をめざし始めた中国との熾烈な市場獲得競争が開始された。
この結果、日本の25分の1という低賃金を基本とする中国は、価格競争において絶対的優位性を持つこととった。このため、日本では繊維製品をはじめ多くの国内製品の海外販売が大きく落ちこみ、さらには、中国製品が国内市場を大きく侵食し始めた。
それまで、国内繊維機械産業とのパートナーであった染色整理業の市場壌失=加工量の大幅な落ちこみの影響は、それまで染色整理業を支えていた加工機械や装置のみならず、染料、助剤の各メーカーを直撃した。
国内染色機械メーカーはそれぞれ独自の技術的優位性が確立されていながら、ビジネス面での優位性に欠けたが故に縮減の憂き目にあっているのが今日の姿である。
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染色仕上機械の技術革新
1.準備、精練、漂白用機械 綿布の準備(前処理)工程機について説明する。
(1)毛焼機(熱風ガス毛焼機)
織物用毛焼機には、固定式(銅板加熱式、電熱プレート式)、回転式(ロール式)、ガス燃焼バーナ式(ガス毛焼機、熱風ガス毛焼機)等があり、現在では熱風ガス毛焼機が一般的に使用されている。
(2)連続精練漂白機
綿布の連続精練漂白機は、処理布の形状から、ロープ式と拡布式に大別され、また適用する漂白剤から過酸化水素法と亜塩素酸ソーダ(クロライト)法とがある。
(3)マーセライズ機
マーセライズ加工(mercerization)は、主に綿繊維品をか性ソーダの濃厚溶液を用い、緊張状態で処理し、光沢・染色性のup、寸法安定性を与える加工である。
(4)液体アンモニア加工装置
液体アンモニア加工は液体アンモニアを使ったセルロース系繊維に対しての所謂マーセライズ加工であるが、か性ソーダ溶液よりも表面張力が低いため、セルロース内部に浸透し均一な改質ができる。
(5)ボイルオフマシン及びリラクサ
合繊織物などにおいて、繊維や糸、織物内部に付着する油分、ワックス、糊剤の除去及び内部ひずみを緩和させて伸縮性やかさ高性を増すための機械で、リラックス処理には液中で適当な温度、時間と、張力、圧縮を与えずに振動、衝撃、屈曲、もみなどの機械的な作用が必要である。
(6)減量加工機
減量加工は合成繊維のシルキ風合いを出すために必要な基本技術である。 この減量加工は一般に回分式、半連続式、連続式に分類され、各染色加工会社でそれぞれ最適の方法が採られ内容は明らかにされない場合が多い。
2.染色機械
(1)連続染色機
バット染料のパッドスチーム機は、戦前すでにドイツで使用されていたがDu Pont社(アメリカ)によって大量生産に適するように改良されたものである。 主としてバット染料の連続染色を目的としたものであるが、反応染料の連続染色に用いられているほか、硫化、直接などの染料の染色にも適用できる。
(2)バッチ式染色機
バッチ式染色機は、被染物の形態(形状)で分類する方法と機械の形態で分類する方法がある。被染物の形態としては、糸、綛、綿(わた)、布(布帛)、製品と多岐に分かれる。
わた、糸用染色機の代表的なものは、パッケージ(チーズ)染色機で糸状、ワープビーム状、綿状等で染色する。布用染色機では、古くはウインス、ジッガ染色機があり最近ではビーム染色機や液流(ジェット)染色機が主流となってきている。液流染色機では、織物や編み物をループ状にして生地を走行させて染色する。
また、ビーム染色機では、生地をビーム芯に巻き取りポンプで液を循環させて染色する。 また、最終製品に近い状態で染色する機械としては、パドル染色機、ロータリー染色機、テープ染色機等があり、繊維製品を円筒状ドラムに入れドラムを回転させて染色する。
バッチ式染色機械における技術革新は、過去から現在まで、節水、省エネ、生産性向上に対する機械の構造開発、改良開発が中心であった。
3.捺染関連機械
衣類や寝具へのデザイン表現は布地に直接手で染料を筆に付けて書こうとしても、染料が布地にしみ込む際に毛管現象でにじみを生じるために旨く絵柄が表現できない。そこで考えついたのが、染料のにじみを防止する目的で糊剤を混入して絵筆で描く方法と、染料がにじむ領域を明確にし、水分を排除したり、逆に吸収させることにより浸染法を利用してデザインの表現をおこなう方法であった。いずれの方法も人手による作業で行われていた。文字の表現が人の手から、印刷技術により機械化された如く、布地へのデザイン表現もまた機械化への発想が多く試みられた。
これらは凹凸版や孔版方式であり、いずれも版を製作しその版に染料に糊を混入したいわゆる「色糊」を使用することにより、デザインを布地に表現することを可能にした。
4.仕上用主要機械
仕上加工は、従来は合成樹脂で布などを処理して、防シワ性、防縮性、硬さなどを改良する樹脂加工機が主流を占めていたが、新合繊の普及で風合加工が見直され、また、家庭用乾燥機の普及によってニットの防縮効果が求められるようになった。一方、繊維の持つ機能を利用して、生地に樹脂をコーティングしたり、フイルムと貼り合せ、高機能性の繊維の用途開発が進み、これらの一連の加工機が求められるようになった。
これらの設備機械で、樹脂加工機に使用される乾燥機や熱処理機は仕上加工専用機ではなく、精練工程や染色工程でも使用されているケースが多いので、これらは各工程共通機械で述べ、ここでは仕上加工用専用機として使用される圧縮収縮仕上機、コンバーティング機、風合加工機について述べる。
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わが国染色機械メーカーの技術革新と今後の方向性
1.染色・仕上加工機械に求められる要件
(1)環境低負荷対応型装置
染色整理業は、エネルギー、水、化学薬品多消費型産業として今日に至っている。 水質汚濁や、有害大気、悪臭、騒音等についてもそれぞれの地区における、行政府と近隣住民との理解の下に操業を行っている。これらの環境負荷を軽減できる加工方式が案出・実用化されれば係る懸念は不要となるが、現有設備が1950年代に案出された装置であり、その後の改良の歴史は枚挙にいとまがない。しかし、加工プロセスにおける原理とその応用は大きな変革を経ずに今日に至っている。
最近オーストリアで開発されたインジゴの電気化学的還元法に見られる如く、長年行われてきた硫化物等による還元操作から、商業電力を用いた還元操作は画期的な技術的改革である。
新しい化学物質が市場に出荷されることが困難になっている。 染色加工を支えている産業は、染色機械、染料、化学薬品、ソフトウエアー、デザイン等あり、その重要度は年とともに変化しているが染色機械はその重要性が常に大きく注目されている。従来の染色操作の多くを化学物質使用に依存していた結果、環境低負荷型の産業への変貌は、化学物質の使用を低減し、物理的な操作による染色加工の展開が求められている。そこには、勿論省エネルギーや節水と言った従来から進められているこの産業固有の環境負荷の軽減も併せて行われる必要がある。
(2)多機能化とそのカスタマイズ化
日本での染色整理業は1960年代に、欧米の各種最新装置の導入により飛躍的にその業績を増大させた。
これら欧米装置の特色は、大量の化学品と蒸気エネルギー使用により短時間に大量の布地を均質に加工することであって、それまでの家内工業的な少量生産から、連続的に大量の加工を可能とし、そのために、加工装置は従来の加工道具から大型装置へと大きな変貌をとげるとともに、装置導入には多額の資本を必要とした。
染色加工は、基本的に準備、染色(捺染を含む)、仕上げの3工程が基本であるので、投下資本もこれら3部門同時と言うことは中小企業体質では投資資金調達面での無理があり、初期の欧米装置導入においても投資効果が大きなもの(均質で大量生産が可能なもの)から導入の速度が速められた。
今、繊維製品のみでなく多くの消費財が2極分化している。 繊維製品も必要最小限の機能を備え、安価なものと、デザインや機能に多くの工夫をこらしたものとに差別化されていくであろう。
中国という巨大生産基地の発現で、消費の二局分化が顕著になり、安価なものは中国にその席を譲らざるを得ないことは明白である。
現在、日本企業で業績を上げている企業群は2つあると言われている。
一つはグローバリゼーションにより安い部品を世界中から調達し、アッセンブルにより総合力を発揮する組み立て産業と、中国では真似のできない高度技術やアイデア商品を次々創出するいわゆる「ニッチ産業」である。今日の染色産業における装置は、小ロット大量生産の名残を留めた装置が未だ多数を占めている。機械装置メーカーも新たな製品といえども大量生産の残像を引きずっている。1960年代以降のこれら装置の幕引きが無い限り、染色整理業なかんずく繊維加工装置メーカーの新たな進展は望めない。
2.今後の染色機械産業に求められるもの
日本での機械メーカーの過去の取組は、ユーザーである染色加工企業との共同開発や染色側の要望を具象化する形を採ってきた。
その結果、製作された装置は染色加工業側の意向により開発装置の他社への販売が当面できなかったり、極度の制限を受けることが多く折角開発されたものが、業界全体の底上げに繋がらないことが多く、共同での開発装置製作をためらわせることが多々あるといわれている。
最近の欧州の機械装置に見られる染薬品企業やIT産業との共同作業の結果生み出された装置なり、その装置使用によるノウハウ付きや実績の公表、また、他の事業者の装置とのアクセスの自由さ等は大いに参考にすべきと思われる。国内工業技術センターや大学も繊維関連が昔ほど盛んでは無いが、シーズとしての機能を果たしてもらえる人材は見つかるはずである。特に国公立大学が今後独立法人化し、今までの学問の府から脱皮し、産業界への寄与が強く求められている現状を踏まえ、産学プロジェクトの立ち上げが今後増加することは間違いなく、新たな加工プロセスの開発と実用化が加速されることが期待される。
なお、今後の染色加工においては、メカニカルな部分にエレクトロニクスを組み入れ、さらに工芸的センスを持つ人工知能的要素が求められる。そのためには多くの異業種も含めた関係者の英知を結集した装置の開発が望まれる状況下にある。
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第III章 繊維機械における技術革新と今後の方向性について
機種別
1.化学繊維機械
中国化学繊維機械メーカーの台頭により統合再編成を余儀なくされていた日欧化学繊維機械メーカーも、2003年の中国の設備投資増加に伴い活気の様相を呈してきた。ヨーロッパではBarmag社(ドイツ)を擁するSaurerグループ(ドイツ)、Scragg社(イギリス)、ICBT社(フランス)を傘下にもつRieterグループ(スイス)に集約され、わが国では主要化学繊維機械メーカー3社の合繊部門が統合しTMTマシナリー(株)として発足している。また、世界の化学繊維工場として増大化の傾向にある中国ではBarmag社から技術導入した無錫宏源など化学繊維機械メーカーの躍進が目覚しい。
今後の技術展開
(1)環境影響低減のため、低騒音、低排煙技術の確立は勿論、製造から廃棄までを考慮した機械の開発。
(2)製品のコスト低減をはかるために、機台の省エネや省力化をはかり、かつ、安定した糸品質と生産性を 確保するための自動化技術などの技術開発が求められている。
2.紡績機械
日本の基幹産業として近代化や戦後の復興に大きな貢献を果たした紡績産業を支え続けたのは、国産の紡績機械である。原綿からスライバー、粗糸、糸になるまでには主に次のような紡績工程を経ている。
(1)混打綿 (2)カード (3)コーマ (4)練条 (5)粗紡 (6)精紡
良い製品を安く作るという経済の基本原則に従い、これらの工程毎に高品質化、高生産性化をねらいとして紡績機械が開発されてきた。
今後の技術展開
ユーザーのニーズは高生産性、高品質化という普遍的なものと、ユーザーの経済環境の違いにより、自動化、操作性向上、保全性向上、工程短縮、省エネ、品種切換え容易化などのニーズに強弱が出てくる。また、ITを活用することにより品質管理、生産管理、保全管理をきめ細かく、かつ容易に実現できるようなソフトを組み込んだモニタリング装置が求められる。これらは信頼性向上とともに安心して使える設備としてユーザーの期待に応えるものとなるであろう。今後はこれらに付け加えて安全性、環境対応の要求が強くなるのは当然である。
以上のようなニーズに応えるために、除塵、繊維平行化、ドラフト、加撚、巻取りなどの紡績機械のコアテクノロジーを追求していくことはもちろんであるが、それらを達成するために、材料開発、表面処理、IT、CAE、シミュレーション、可視化といった汎用技術、設計ツールを最大限に活用する必要がある。
3.準備機械
準備機械の主な種類をあげると、自動ワインダーやダブルツイスター、毛羽焼き機など糸巻き機に分類される糸仕上準備機、織機の前工程である経糸準備機として、ワーパーやサイジングマシン、ビーマー、オートドローイングマシン、タイイングマシンなどがある。
今後の技術展開
従来は高速化、自動化そしてコンパクト化が開発の主流を成していたが、今後は環境に対する配慮は勿論、一層の品質重視とユーザーの多様性を意識した機械設計が求められる。
4.織機
織機による織布製法は太古から変わらないが、ニットや不織布に劣らぬ技術革新を続け、衣料・産業資材などで幅広く用途を拡大している織布の優位性は、今後も揺らぐことはないと考えられる。織機の技術発展は、1733年の英国のJ.Kayによるフライングシャトルの考案による大幅な生産性向上以来と言えるが、その後、動力を駆使する力織機へ、更に自動織機へと発展し、1960年には緯糸準備工程が組み込まれた織機の出現を迎える。一方、1950年以降には新たな高生産性技術として、1本の緯糸を運ぶ手段に数千倍もの重量のシャトルを使う非効率さを回避するシャトルレス織機の開発が進み、その中からレピア織機、グリッパ織機、ウォータジェット織機、エアジェット織機といった機種がそれぞれの特徴を生かしながら発展し、 1980年代後半からは高速化と高品質化を目指した技術開発が急速に進んだ。
加えてエレクトロニクス技術の発達が性能向上に大いに貢献し、一層高速化と汎用化が拡大した。その結果、直近の10年間で織機1台当たりの生産性が、2倍に増大したといわれている。
変化する市場と技術開発テーマ
織機が新たに設置される市場は、産業活動のグローバル化の流れと共に適地生産化が進み、発展途上国へとシフトしてきたが、特に近年は、あらゆる産業が猛スピードで中国へシフトする現象となっている。現在、いわゆる定番品の生産では中国を視野の中心に置かざるを得ず、他の発展途上国にあっても中国との共存を模索しながら、定番品の「量」主体の生産が行われている。一方、生産コストの高い日本、欧米などでは必然的に「質」へ軸足を移す対応が進められてきた。織機メーカーには、「量」に対しては高生産性と低コスト、「質」に対しては織物の高付加価値化と生産技術の高度化を追求する開発が要望されている。また、社会の環境意識の高まりや規制強化によって、振動や騒音など労働環境問題や環境に優しい素材への取り組みも大きなテーマになっている。
まとめ
今後の繊維機械の技術革新と方向性は、国内、外の社会状況の変化、及び周辺技術の発展の状況に依存することはいうまでもない。その中でも近年特に注視しなければならないのは、人間尊重も含めた環境問題、また技術の面ではエレクトロニクス、コンピューター及び通信技術の発達が共通の認識となっており、繊維に限らず全ての産業分野での共通のキーワードとなっている。
繊維製造業の汎用、量産分野については、中国を中心とした発展途上国に製造の中心が移ってきている。繊維機械についても、模倣も含め激しく追い上げられており、日本、欧州等の繊維機械先進諸国は、より先の技術開発が今後の企業存続の必須条件となっている。
このような状況に対応するため、国内の繊維製造業においては、高付加価値化、差別化、小ロット対応による棲み分けを目指しており、この面では汎用、量産とは目的、用途の違った繊維機械、設備が必要となる。従って、繊維機械の方向性としても、中国を中心とした汎用、量産向けの設備と、国内を中心とした、高付加価値、差別化、小ロット対応を目的とした設備という両面の視点が必要であろう。
また、開発した機械、技術、ノウハウ等については、その知的財産保護の観点から特許化等も含めた、防護措置も益々重要となってくる。単純な模倣が難しい、関連機械、設備、ノウハウなどを統合したシステムとしての開発も一つの方向であろう。
日本はコンピューター技術を含め様々な先端技術分野での先進国であり、各々のニーズ要件を解決するための個々の技術についてはほとんど国内でまかなえる。この点は、そのような基盤の脆弱な発展途上国と比較し極めて優位である。また、欧州諸国と比較しても、全体的な産業基盤は勝るとも劣ってはいない。
繊維製造業再生のために、川上から川下までのSCM(サプライチェーンマネジメント)の確立が叫ばれている。成否は、関連する各企業の利害関係を超えた協力体制をいかに実現できるかにかかっていると思われる。
繊維機械の技術革新の方向は、社会の流れ、ユーザーの要求が決めてくれるともいえる。その要求に従来の生産性、コストパフォーマンスなどに加え、地球に優しい、人に優しいなどがキーワードとして加わってきている。それにこたえる繊維機械産業としての一つの方向性は、その具体的課題解決のため、いかに関連技術を結集出来るか、そのような体制をつくることができるかということでもある。国際競争力という視点では、時間との戦いも大きな要素となる。
日本は技術先進国である。日本の様々な産、学、官の境を越えたマルチコラボレーションともいうべき開発体制を実現できれば、技術革新の時間との戦いをも制し、さらにはトップランナーとして新たな方向性を示していくこともできると確信している。
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この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。